±Days

無いものねだりな彼らのやりとり




「――あれだけわかりやすく忠告してあげたのに、みすみす攫わせるなんて、あなた方は馬鹿なんですか? 馬鹿なんですね。わかっていましたが、ここまで愚かだとは思いませんでした。……あの人の意を汲んで静観していましたが、まさかこんなあっさりと二の舞を演じるとは驚きを通り越して呆れます」

「え……香澄……?」

「何を呆けているんですか馬鹿兄。元々の馬鹿に馬鹿の上塗りをする無様を晒して、こんなのが兄だなんて嘆かわしい。あなたは跡取りなんですよ。あの時とは違って、『やろうと思えばできる』ことがあるのにそれにすら気が回らないんですか。あの時から成長も進歩もしていないのだと、そうして木偶のように突っ立って間抜け面を晒していたいというのなら、あなたの権限を総代としてぶんどって俺が動きますが、それでいいんですか」

「どう、いう……」

「その残念な理解力を慮って一から十まで説明してやるなんてことは俺はしません。ただ、あの人の望みだから、まだ動かないでいてやっているだけです。あなたに見込みがないのだと判断すれば、あの人の意に背こうが俺は動きます。だから呆けてないでその前に動けって言ってるんですよ馬鹿兄」

「……」

「一発ぶつくらいしないとまともに思考もできないんですか? 今のあなたなら楽に勝てそうですし跡取りの座もぶんどってやってもいいんですよ」

「……跡取りなんて面倒だからって、わざと手、抜いてるくせに」

「……。純然たる実力ですよ。俺は馬鹿兄と違って、頭に回るべき栄養が身体能力の強化に回ったような体力馬鹿ではないので」

「オレは、強くなれなくていいから、香澄みたいに考えてることをわかってあげられる頭が欲しかったよ」

「馬鹿兄の頭の残念さは生まれつきだから、無いものねだりしても仕方ないでしょう。……俺だって、どんなに馬鹿でも愚かでも、見捨てないでいてもらえる位置にいたかったですよ」

「香澄だって、無いものねだりしてるじゃん」

「うるさいですよ馬鹿兄。生まれた順番も出会った順番も努力じゃ覆せないんだから、羨むくらいかわいいものでしょう。――それで? そろそろ腹も決まったかと思いますが」

「うん。……うちは情報収集には向かないから、他の家に協力を仰いで。共同戦線、張れるよね」

「ええ。知っていましたか」

「ううん、あの子に関することだから、そうだろうなって思っただけ」

「本当、勘だけで世の中渡っていけそうですね。天然ボケで馬鹿で鈍いくせに、こういう時は鋭いんですから」

「……オレ褒められてないよね? 貶されてるよね?」

「8:2ですよ」

「どっちが8でどっちが2!?」

「どっちでもいいでしょう。――あの時の繰り返しにしたくないなら、キリキリ働いてくださいよ、馬鹿兄」

「わかってるよ。……オレたちだって、もう見ているだけはゴメンなんだから」


Copyright(c) 2014 Sou All rights reserved.
inserted by FC2 system