±Days

彼女の昔話




 さっきも言ったけど、あいつらと私は幼馴染なんだ。っていっても、家が特別ご近所さんだったわけじゃなくて、たまたま小さい時に知り合って、そこからずるずる付き合いが続いてる系の幼馴染なんだけど。

 あ、家同士が知り合いで〜とかそういう出会いだったわけでもない。私もだけど、あいつら同士もね。

 子どものときって、出会った子がどこの誰でどういう家に住んでて〜みたいなのってあんまり重要じゃないところあるよね?
 ここ行けば会える、とかそういうのだけわかってればいいっていうか。それすらわかってなくてもいいっていうか、その時その場にいた同士でなんとなく遊べる物怖じなさがあるけど、そういう感じで知り合ったの。

 まあ、だからその頃はあいつらがあんな大金持ちの、いわゆる一般常識を知る由もない環境にいる人間だとかはわかんなくて。変な奴らだなーくらいに思ってたわけ。
 だってブランコの前で遊び方わかんなくてその前で突っ立ってたり、シーソーを端から端まで走るっていう謎の遊び方編み出してたり、水飲み場っていうものがわかんなかったらしくて水出してはぴゃって逃げ出してたり、トイレ行きたいっていうから公衆トイレ行かせたら泣いて帰ってきたりするんだもん。変な子っていう感想で留めたあの頃の私えらいと思うよ?

 で、まあしょっちゅう顔を合わせるうちに、名前と顔だけ知ってる遊び友達的な仲になったわけ。

 いや、そこの遊び場人気無くてねー。ちょっと離れたところに新しい公園ができたばっかりで、大抵の子はそっちに行っちゃってたのね。
 私はその遊び場に不満があったわけじゃなかったし、新しいところは混んでるのがイヤだったからそこで遊んでたんだけど、あいつらの場合は単に土地勘が無かったっぽい。あと、一部は勝手に家抜け出して来てたらしくて、人がいるところを避けた結果だったってのもあったみたい。

 まあそんなわけであんまり人気のない遊び場で、ちびっ子だけで遊んでたわけだよ。保護者連れは誰もいなかったし。別に変質者がーとかって事例もなかったから特に何も言われてなかったけど、まあ馬鹿っていうか、迂闊だったよね。



 で、やっとここで馬鹿な大人が出てくるわけです。

 ほら、あいつら、一応曲がりなりにも金持ちの家の子どもじゃん? 身代金目当ての誘拐が起こったわけです。現実にあるのかーってびっくりだけど、意外にあるものらしくて。

 ……ただ、それを企てたやつらが馬鹿でねー。ほんと馬鹿でねー。
 顔をちゃんと確認しなかったの。そこに集まるガキが金持ちの家の子らしいぜ、っていうところから始まって、どこの家のガキかを調べたまではいいとして、いざ誘拐って段で、最初にその場所に現れたガキをさらおうぜ、ってくらいの杜撰な計画――いやもうこれ計画でもないな――で決行しちゃったのね。
 欲かいて全員さらおうぜってしなかったのは、慎重っていうより、多分人数が足りなかったんだと思う。

 そう、攫われたの、私だったんだよねぇ。

 いやあ、びっくりだったよ。変質者とかってのがどういうのかの話はなんとなく耳に入っても、身代金目当ての誘拐って普通聞かないじゃん?
 で、誘拐犯たちもね、さあ誘拐したー、脅迫電話かけるーの段で、アレッてなったわけよ。
 まずどの家の子だこいつ、ってなってたよね。そこからわかんないとかほんと馬鹿だと思うけど。

 テンパったのかなんなのか、誘拐犯たちがとりあえず全部の家脅してやれーって阿呆なことしでかしたおかげで、私がさらわれたってのがあいつらの家に知られて。
 まあなんだかんだあって巻き込まれた私は、あいつらの家の協力もあって無事に解放されたんですが。

 そうなるまでにそこそこ日数経っちゃってね。とりあえず子どもにとっては結構つらいくらいの日数。
 知り合いどころか知らないこわい感じのオトナしかいないor誰もいない部屋にひとりきり、が続くと、まあ精神って疲弊するよね。

 ――あ、大丈夫。トラウマとかにはなってないよ。あくまでも一時的に弱っただけで。元が図太いみたいでわりとさっさと回復したし。
 
 だけど、その『弱った私』があいつらには結構ショックだったみたいで。あとうちの家族にもね。これは身内が巻き込まれ誘拐されたんだし仕方ないかと思うんだけど。
 なんか皆変にしこりになっちゃったみたいなんだよね、その件が。

 あいつらの家が気にするのは、まあわかるよ。お詫びの品とかしこたまもらいました。子ども同士が面識あっただけ、っていうのが発端なのに律儀だよねぇ。

 あいつらの家って基本はマトモ感性なんだよ。……いや信じ難いかもしれないけど、金持ち連中の中では真っ当な方みたいだよ? あ、一部親戚は除くけど。

 うちの家族がちょっと過保護入ったのもまあわかるよ。一応私末っ子だし、可愛がられてたし。それが加速しただけ――っていうにはちょっとアレだったけど、まあ延長線上としてね。

 まあ、あいつら自身が気にするのも、わからないとは言わないんだけど。だって、要はあいつらのとばっちりで私は誘拐されたんだし。一歩間違えれば命の危険とかもあったかもだしね?
 でもあいつらに責任の所在があるかっていうと、まあ私的には微妙なんだよ。
 だって子どもが子どもらしく子ども同士で遊んでただけだし。あれくらいの子どもに自分の立場弁えて引きこもってろとまでは言わないよ。外で遊びたいときもあるよね。

 でもあいつらは気にしちゃうんだなぁ。で、初めてできたオトモダチが大事な気持ち半分、罪悪感半分、みたいな感じで変な距離とってくるわけ。
 なんでこんな好かれたのかはわかんないんだけど。多分思い出補正とか、一般人的距離感が珍しかったとかそんなんだと思うんだけど。
 せっかくのオトモダチを失くしたくない、でもまたあんな迷惑かけるのはダメだ、本当はあんな迷惑かけた自分たちが傍にいるのはよくない、でも友達でいたい、みたいな堂々巡りだよ。結局離れようとはしないところがかわいいよね、ある意味。

 私の方はほら、別にトラウマにもなっちゃいないし、普通に幼馴染兼保護者みたいな気持ちでいられるんだけど。
 あっちがちょくちょくそういうネガティブ的なものをまだ抱えてるのわかっちゃうと気になるじゃん。
 でも口で何言ったって無駄だっていうのは今日に至るまでで思い知ったし、気長にやるしかないかなーと思ってたんだけど。

 ――……そ、おあつらえ向きのこの事件です。

 あいつらはね、つまり、巻き込んじゃったのを後悔してるのは確かなんだけど、何もできなかったっていうのが一番つらかったみたいなんだ。
 元凶みたいなものなのに、それを解決するために何一つできることが無い、って記憶が引っかかったままなわけ。
 だからその辺解消してやれば、なんかいい感じに変わるかなーと思うんだよね。
 で、ついでにあいつらの中の、数日誘拐されて弱った私っていうのを拭い去ってやれば尚良いかなって。

 うん、自力脱出試みてるのはそれ。巻き込まれ誘拐されても、されっぱなしじゃないぞっていうのの実践的な?
 どっちにしろ中途半端かなーと思うけど、まあやらないよりはマシってことで。

 『自分たちのせいで』あなたが攫われた、のを助けるために動けて、助けきって、ついでにこっちも自力で脱出可能な域までいってれば、言うことないレベルかなってね。


 ……そりゃあここまで付き合い続いてる幼馴染ですし? 嫌いじゃないよ。好き、っていうのは気恥ずかしいけど、まあそうだね。

 恋愛、にはならないなぁ。私もだけど、あいつらが特にね。
 罪悪感につかまってるうちは多分無理だと思うよ。かと言って家族愛的な方向に行けるかっていうとまた微妙なところだけど。

 ――っていうか一応あいつらあなたに好意を示してると思うんだけど、伝わってなかった?


 …………。
 ………………。
 ……まあ、否定できるほどの材料はないかな。でもあいつらがあなたに惹かれて、あなたっていうひとの人柄を好きになったのは本当だろうから。そこは信じてあげて。

 これが全部終わって、落ち着いたら、今度こそちゃんと、いろいろ向き合えると思うから。
 結論は、それから出してもらいたいかな。幼馴染としての、我が儘だけどね。



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