±Days

分かち合えない彼らのやりとり




「無様ですね、兄上」

「…………」

「あれだけ忠告されておいてこの様とは。まあ、どうせこんなことになるだろうと思っていましたけど」

「……手厳しいですね、社」

「手厳しい? 妥当な感想だと思いますが。というか心にもないことをその場しのぎで口にするのは止めにしたらどうですか。上滑りしかしない言葉など不快です」

「そういう風に生きてきたんですから、今更変えられませんよ」

「それが体のいい言い訳だってわかっていて口にしてるところが、救いようがないって言ってるんですよ。努力くらいしてみせたらどうですか」

「――誰もそんなの、望んでないでしょう」

「ふぅん? ……流されるまま、周囲の大多数が望むまま、楽に生きてるだけだと思いますが。あの人がそれを望みましたか?」

「……ッ」

「一番大事な人の望むように変われない現実から逃げてるから、こんな時にも役立たずを晒すことになるんですよ。まったく、こんなのが兄とは恥ずかしいですね」

「だって、――私ができることなんて、何もないんですよ。それなのに、何をしろと」

「そうですね。兄上はこんな場面じゃ何の役にも立たないでしょうね。音楽なんて奏でられても何の慰めにもなりませんし」

「……わざわざ、嫌味を言いに来たんですか」

「それもあります。でも、諦めの早すぎる使えない長兄を立てるのも、次兄の務めかと思いまして」

「……?」

「『何かあったら』と彼女に渡していたものがあります。どうやら存在を忘れてはいなかったようなので、少しは役に立つと思いますが」

「どういう、ことですか?」

「彼女の様子を多少は知ることができる、ということです」

「……!」

「居所は他の家が把握しているでしょうし、こういう事態に有用な家もあったでしょう。うまく使えば役に立つはずです」

「……。わかりました。有り難く使わせてもらいますよ」

「…………」

「………………」

「……結局自分の力で何も為せない事実に自己嫌悪でもしてるんですか。鬱陶しいことですね」

「…………」

「天が自分に何もかも与えてくれているなどと思っているわけではないでしょう。得るための努力をしていないのだから、現状だって当然のことです」

「……そんなこと、わかっていますよ」

「貴方のような才がないからこそ、僕はこういう人間になったんです。易々とお株を奪われては困ります。――使えるものを使うというのも度量ですよ」

「才が無いなんて――」

「否定も慰めも要りません。そんな段階はとうに過ぎました。……才能がないのだと思い知って、僕は自分で自分の使い方を決めたんです。口先だけの慰めは僕にとって侮辱と同じです。そこのところ、よく理解しておいてください」

「…………」

「『今できること』を見誤らないように。――では、僕は戻ります」

「……っ、社!」

「……何か」

「――ありがとう。あなたがいてくれて、よかった」

「どういたしまして。……そうやって、身内にくらいは多少気安く話すようにした方がいいですよ。張りつめすぎて、思いもよらないところで切れてしまうよりは」

「……。あなたにだけは言われたくないですよ」

「僕のこれは、自分を律するためのものですからね。……まあ、好きにすればいいですよ。あの人に迷惑さえかけなければ」

「今、この状況下でそれを言うのは、嫌味以外の何物でもないですよね?」

「少しは調子が戻ってきたようで何より。腑抜けた身内を見るのなんて、二度もあれば十分ですし」

「……面目ありません」

「反省も自己嫌悪も後にして、とっとと動いてください。あの人のことだから大人しくはしていないでしょうし、こちらも早く手を打たないといいところなしで終わりますよ」

「ええ。……ありがとう、社」

「礼は二度も要りませんよ、愚兄」

「それでも、言いたかったので」

「……。それはどうも」




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