±Days

もうひとつのかえる場所




「……ユズ。何忠犬よろしく玄関前で待ってんの」

「会いたかったから!」

「そういうのが聞きたかったんじゃないんだけど。相変わらず天然馬鹿だねユズ」

「……天然バカ……」

「え、何その微妙な顔。なんかちょっと嬉しそうに見えるのは気のせい? それともついにMに目覚めたの?」

「ちょ、違うよ! なんか久しぶりに会えたなーって実感してただけっ!」

「そんな言うほど久しぶりじゃないと思うけど。こないだ会ってから一週間も経ってないよね」

「ホントはもっと早く来たかったんだけど、じーちゃんに荒行付き合わされちゃって」

「……荒行」

「目が覚めたら山奥ですごいびっくりした!」

「そうだねそれはびっくりだね。……びっくりで済むあんたの家がこわいよ」

「まあじーちゃんのやることだし」

「おじいさんが確認するまでもなく元気そうで何より――ってことにしとく」

「元気だよー。山から帰ってすぐに武者修行してくるとか言って出てっちゃったけど」

「え、……あれ以上強くなってどうするの? 人類最強でも目指してるの?」

「ううん。単純に強い人と戦いたいだけだと思う」

「……で、あんたは山奥での荒行から戻ってここに来たと。学校行きなよ」

「だってどうせ遅刻だったし。会いたかったから!」

「輝かんばかりの笑顔で言う台詞じゃないからな、特に前半」

「え? ……えーと、真剣な顔で言えばいい?」

「そういう問題じゃないっての。……あー、もういいや、とりあえず上がれば? お茶とお茶請けくらいは出すよ」

「やったー!! ねぇ手作り? 手作り?」

「いやもらいもの。ミスミがオススメだって言って持ってきた」

「そっかー……。でもミスミのオススメならハズレはないよね!」

「だろうね。……ああ、あとカンナが送ってきた食材もあるか。何か食べてく?」

「それって夜ご飯!?」

「そう。今夜ひとりだから分量調整めんどいなって思ってたんだった。まああんたの都合が付けばだけど」

「都合つく! 大丈夫!! ……レンリも呼ぶ?」

「なんでレンリ限定」

「だってカンナは絶対忙しいし、ミスミは確か海外だった気がするし」

「海外? ……あー……そういえば何か欲しいものありますかとか聞かれた。あれお土産の話だったのか」

「どうしてもって言われてリサイタルのゲスト断れなかったから家族で行ってきます、とか言ってたよ」

「へえ、じゃあ前いたところでも知り合いなのかもね。……まあそういうことならレンリだけ呼ぼうか。食後のデザートでも作ってもらおう」

「え、デザートは作ってくれないの?」

「夕食作るの誰だと思ってんの」

「うう……今回は我慢する……」

「今日はってなんだ今日はって」

「だってご飯おいしいけどお菓子も食べたいし!」

「胸を張るな胸を。……お手軽パウンドケーキくらいなら土産に持たせてやるから。家族用で」

「え、オレの分は!?」

「余ったら食べれば?」

「余るわけないじゃん! そんな言うんだったらこっそり一人で全部食べてやるー!」

「今ここでそう宣言してる時点でこっそりじゃないからな馬鹿ユズ。……わかったわかった、あんたの分も別に作ってやるから」

「!! ほんと!? やったー! 独り占め!!」

「それ独り占めとはちょっと違う。あと言っとくけどキャロットケーキだからな――って聞こえてないか」


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